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東京地方裁判所 平成3年(ワ)15573号 判決

原告

麻生幸靖

右訴訟代理人弁護士

朝日純一

降籏俊秀

被告

株式会社インターフェイスプロジェクト

右代表者代表取締役

竹内朝房

右訴訟代理人弁護士

伊藤昌釭

主文

一  被告は原告に対し、金一二三八万一六五四円及びこれに対する平成三年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金一三〇八万一六五四円及びこれに対する平成三年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事実

本件は、原告が被告に対し、顧問料残金とこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

一請求原因

1  原告と被告は、平成二年六月五日、次の要旨の業務協力契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) 原告は、既貸付分を含めて総額金一〇〇〇万円を貸し付け、被告は平成三年三月三一日までにこれを返済する。

(2) 被告は、原告を平成五年三月三一日まで被告の業務顧問に迎え、この間原告は業務顧問として、株主総会、取締役会等の重要な会議に適宜出席し、被告の業務について助言協力等をする。

(3) 被告は原告に対し、業務顧問料として、加勢大周に関する毎月の売上高の五パーセントを翌月二五日限り支払う。

(4) 被告が本契約に基づく債務を履行しない場合の担保として、平成二年六月一日付けの被告と加勢大周との専属契約における契約上の地位を、原告の指示する者へ移転することを予め同意する。

2  原告は、本件契約に基づき、総額一〇〇〇万円を被告に貸し渡した。

3  原告は、本件契約に基づき、被告のイベント業務に対する助言、芸能関係者への周旋等、顧問として活動した。

4  被告は、別紙売上目録一ないし一八記載のとおりの売上があった。

5  平成二年九月から平成三年七月までの各二五日が経過した。

6  被告は、同目録記載の売上のうち、次のもののみを計上して原告に報告し、これに基づき原告に顧問料を支払った。

(1) 同目録一の1のうち、九〇〇万円

(2) 同目録二の1のうち、一三五〇万円

(3) 同目録三の一一六万二五〇〇円

(4) 同目録四の1のうち、一八〇〇万円

(5) 同目録五の1のうち、四五〇万円

(6) 同目録六の1のうち、二七〇〇万円

(7) 同目録七の1のうち、二七〇〇万円

(8) 同目録八の四四九万三五一六円

(9) 同目録九の七七六万九四一九円

よって、原告は被告に対し、未報告売上高二億六一六三万三〇八〇円に対する五パーセントの相当額一三〇八万一六五四円の顧問料とこれに対する遅延損害金の支払を求める。

二請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実を否認する。

2  同2の事実のうち、被告が原告から一〇〇〇万円を借り受けたことを認め、その余を否認する。

3  同3の事実を否認する。

別紙売上目録一の2記載のものは、預かり金である。

同目録四の2記載の売上金は、他のタレントのものである。

同目録一五、一六のものは、被告の売上ではない。

4  同4の事実を否認する。

5  同6の事実のうち、被告が原告に金員を交付したことを認め、その余を否認する。

三抗弁

1  原告と被告は、平成三年四月二〇日ころ、本件契約を合意解除した。

2  被告は、原告が顧問として著しく不適格であるため、平成四年一月二三日、原告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

3  別紙売上目録一〇記載の1ないし5は、契約が解除された。

4  同目録一四記載の契約は解除された。

四抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実を否認する。

2  同2の事実のうち、原告が顧問として著しく不適格であることを否認する。

第三理由

一請求原因について

1  請求原因2の事実のうち、被告が原告から一〇〇〇万円を借り受けたこと、請求原因6の事実のうち、被告が原告に対し金員を交付したことは、当事者間に争いがない。

請求原因5の事実は、裁判所に顕著な事実である。

2  〈書証番号略〉は、業務協力契約書と題する書面であり、第一条として、乙は甲に対し、所属タレント加勢大周の養成等の資金として、合計一〇〇〇万円を貸し出す、第二条として、乙は甲に対し、自ら又はその指定する者一名を甲の非常勤顧問として出向させ、甲はその就任を承諾する、業務顧問の就任期間は平成二年四月一日から平成五年三月三一日までとする。業務顧問は、甲の株主総会、取締役会その他の重要な会議に適宜出席するほか、甲の業務について適宜助言を行う、甲は乙に対し、就任期間中、顧問料として、甲の専属タレント加勢大周に関わる売上高の五パーセントを持参又は送金して支払う、甲は乙に対し、毎月末日現在の甲の売上高と顧問料計算書をそれを裏付ける合理的な資料を添えて翌月一〇日までに提出し、同月二五日(休業日に当たる場合には翌営業日)に顧問料を支払う、第三条として、第一条に基づく貸金合計一〇〇〇万円を平成三年三月三一日限り約定利息とともに一括して返済する。第五条として、万一甲が乙に対する債務を本契約の約定どおりに履行しなかった場合には、甲は、甲とその専属タレント加勢大周との間の専属契約を甲から乙の指定する者に譲渡し、専属移転を行うことにあらかじめ同意する、等が記載されてあり、末尾に、期日として「平成二年六月五日」と記入され、さらに、甲…株式会社インターフェイスプロジェクトの記名とその名下に同社代表取締役の印影があり。乙…麻生幸靖の記名とその名下に同人の印影がある。

この〈書証番号略〉の成立は、当事者間に争いがない。

3  前記争いのない事実と〈書証番号略〉に証拠(〈書証番号略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、不動産会社の経営をしているものである。被告は、芸能プロダクションであり、竹内朝房(以下「竹内」という。)が代表取締役である。被告は、所属タレントとして加勢大周他数人を保有していた。

(2) 原告は、平成二年三月ころ、知人を介して竹内と会ったが、その際、同人から「当社は専属タレントとして加勢大周という有望新人を抱えており、今後かなり売れると思っているのだが、すぐには契約が取れないため会社」の資金繰りが大変だ。しばらくの間運転資金を融通してもらいたい。また、麻生社長は各方面に顔が広いとお聞きしているので、わが社の顧問としてスポンサー探しや各種イベントに際して協力してもらえないか、顧問料はお支払いする。」旨の依頼があった。そして、更に竹内から、加勢大周のコマーシャルフィルムが二、三取れそうだから何とか返済できる、もし返済できなければ、加勢大周の専属権を渡してもよいとの話があった。原告は、加勢大周に対して興味を抱き、同人に会わせてもらったところ、有望そうなタレントであったため、被告に援助してもよいという気になり、平成二年四月二日、金三〇〇万円を被告に貸し付けた。しかし、竹内社長からは、もっと多額の融資をしてほしいとの要請があった。

(3) そこで、原告は、被告との間にしっかりとした約定を締結した上で被告を支援しようと決心し、平成二年六月五日被告との間で業務協力契約書(〈書証番号略〉)を作成した。

(4) 原告は、右契約書に基づき、総額一〇〇〇万円を被告に貸し付けた。

(5) また、原告は、被告のイベント業務に対する助言、芸能関係者への周旋等、顧問として活動してきた。たとえば、平成二年九月二日、加勢大周出演の映画「稲村ジェーン」の公開記念イベントに際して、原告はアルバイトを自費で一〇人くらい雇って会場整理にあてた。また、原告は、右映画のチケットを約二〇〇〇枚買取り、相当数を無料で配布した。平成二年一二月の加勢大周の誕生日イベントにもアルバイトを自費で雇った。また、加勢大周が竹内社長のマネージメントに不満を抱いており、原告はこれを聴取して竹内社長にアドバイスをしたりした。更に、加勢大周の生活に気を配り、装身具やファミコンなどを買い与えたりしてやった。

(6) 被告は、約束どおりの顧問料を支払ってくれなかったが、平成二年一一月二九日に同年九月末日までの加勢大周関係の売上高が合計四九一六万二五〇〇円であるとして、その五パーセント相当額二三〇万八一二五円を送金してきた。

(7) しかしながら、その後被告は、またも約定どおりに加勢大周関係の売上高を明らかにせず、何らの支払をしなかった。そこで原告は被告に、売上の明細を明らかにするよう再三要求したところ、平成三年三月二一日に被告は原告に対し、貸金元金七〇〇万円とともに、平成二年一〇月から平成三年二月までの加勢大周売上高を合計六六二六万二九三五円であるとして、その五パーセント相当額金三三一万三一五〇円を送金してきた。

(8) 原告は、被告が売上高の一部を隠匿していることに気付き、竹内社長に対し話し合いを申し入れたが、返事がなかったため、平成三年四月以降三回にわたって内容証明による通告をしたが、返答はなかった。

(9) ところで、平成三年四月ころ、加勢大周が被告竹内社長との対話を拒否する事件が起きた。原告は、竹内社長に依頼され、加勢大周と被告のトラブルの円満解決を図るため、被告の顧問として北海道にいた加勢大周に会い、同人から事情を聞いたところ、加勢大周から被告のマネージメントの無計画性、給与待遇面についての不満が出された。原告が熱心に説得したところ、加勢大周から竹内社長と直接会って話をしてもよいという返答をもらい、原告は同月二〇日ころ竹内社長にその旨報告した。しかし、竹内社長が加勢大周の謝罪がない限り会わないという態度を取ったため、加勢大周と被告のトラブルは一層激化するに致った。

4  右認定の事実によれば、請求原因1(本件契約の成立)、同2の事実のうち金員貸付が本件契約に基づくこと、同3(本件契約の履行)及び6の事実のうち金員交付が顧問料として支払われたものであることの各事実は、優にこれを認めることができる。

もっとも、被告代表者竹内は、「原告と被告間には顧問契約はなかった。顧問料は、一〇〇〇万円の貸金に対する一〇パーセントの金利以外に支払う別金利である。朝日弁護士から、本契約書は利息制限法に引っ掛かるから、一頁から四頁まで全部そろった副本と、一頁と四頁の二枚しかない正本の二通を作成するので、表に出すときは、正本を見せて下さい。副本は内々のもので表に出さずにおくものだと言われて、それぞれのコピーを渡してもらった。」旨供述し、〈書証番号略〉を証拠として提出する。

しかしながら、竹内の右供述内容は、次のとおり不自然、不合理であり、前記認定の事実に照らしても、にわかに措信しがたい。

(1) 表に出すときの正本だという〈書証番号略〉は、一頁と四頁にはそれぞれ頁数が1と4と記入されており、間の二、三頁が欠落していることが容易に推認される文書である。このような書類を表に出すべき正本だとするなどという話は、話自体不自然である。

(2) 〈書証番号略〉の記載内容が利息制限法に違反するものではないことは明らかであり、このような内容の書類をわざわざ二通りに分けて作成しなければならない理由も必要性も全くない。

他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

5  なお、被告は、本件契約に基づく顧問料は、債権の回収があったときに発生するものであるとも主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

かえって、〈書証番号略〉の第二条(4)には、前記のとおり、被告は原告に対し顧問料として加勢大周に関わる売上高の五パーセントを支払うこと、被告は原告に対し毎月末日現在の被告の売上高と顧問料計算書をそれを裏付ける合理的な資料を添えて翌月一〇日までに提出し、同月二五日に顧問料を支払うことが記載されているだけであり、顧問料の支払に関してはそれ以外の記載がないことに照らせば、本件契約に基づく顧問料は売上にかかる債権が発生したことにより当然に発生する趣旨であると解するのが相当である。

6  そこで、請求原因4の事実について判断する。

(1) 〈書証番号略〉によれば、別紙売上目録一の1記載の売上が認められる。

(2) 〈書証番号略〉によれば、同目録一の2ないし5記載の売上が認められる。

もっとも、被告代表者は、同目録一の2ないし5記載のものは、預かり金であり、売上ではないと供述する。しかしながら、右供述を裏付ける客観的な資料はない。

なお、〈書証番号略〉は、株式会社創美企画が被告に宛てた平成三年七月二四日付け通告書であるところ、右書証中には、株式会社創美企画が被告に契約に基づき支払った八〇〇〇万円を、被告の債務不履行を理由に全額返還するように通告する旨の記載がある。右書証によっても、前記目録記載の金員が預かり金であるとは認めがたく、かえって〈書証番号略〉とを併せ考えると、売上であることが認められる。

(3) 〈書証番号略〉によれば、同目録二の1ないし3記載の売上が認められる。

(4) 〈書証番号略〉によれば、同目録三記載の売上が認められる。

(5) 〈書証番号略〉によれば、同目録四の1ないし4記載の売上が認められる。

もっとも、被告代表者は、同目録四の2の売上金が加勢大周とは関係のない他のタレントのものであって、顧問契約の対象外であると供述する。

しかしながら、前記のとおり、〈書証番号略〉には、顧問料として、被告が原告に対し、加勢大周に関わる売上の五パーセントを支払う旨記載されているのであるから、本件契約は、加勢大周に関わる売上である限り、他のタレントの分の売上を含んでいても、当然顧問料算定の基礎にすることができる趣旨であると解するのが相当である。そこで、〈書証番号略〉を検討するに、前文で「株式会社電通名古屋支社(以下、甲という)、」株式会社インターフェイスプロジェクトを乙(以下乙という)として、乙に所属する加勢大周(以下、丙という)が、株式会社鈴丹(以下、丁という)の広告作品に出演(演技その他の役務を提供すること。以下同じ)すること、およびその出演によって制作された広告作品を、甲が広告宣伝に使用することについて、甲、乙二者間において下記のとおり契約を締結する。」と記載され、第四条(1)甲は、乙に対し本契約の契約料として金二〇〇〇万円也(源泉税込)、企画制作協力費金一二〇〇万円也(源泉税込)を、平成二年一一月一四日までに支払う。」「また、この契約料には、丙が出演する広告作品の必要に応じて起用する乙に所属する新進女性タレント二名(高村美樹、福成礼弥)までのTV―CM、スチール写真、ラジオCM各一回の出演料を含むものとする。」と記載されている。この〈書証番号略〉によれば、前記目録四の2記載の売上は、加勢大周が出演する広告作品の必要に応じて起用する被告に所属するタレント二名までの出演料を含んではいるものの、加勢大周に関わる売上であることは明らかである。

したがって、この点に関する被告の主張は、理由がない。

(6) 〈書証番号略〉によれば、同目録五の1及び2記載の売上が認められる。

(7) 〈書証番号略〉によれば、同目録六の1ないし4記載の売上が認められる。

(8) 〈書証番号略〉によれば、同目録七の1ないし4記載の売上が認められる。

(9) 〈書証番号略〉によれば、同目録八記載の売上が認められる。

(10) 〈書証番号略〉によれば、同目録九記載の売上が認められる。

(11) 〈書証番号略〉によれば、同目録一〇の1ないし5記載の売上が認められる。

(12) 〈書証番号略〉によれば、同目録一一記載の売上が認められる。

(13) 〈書証番号略〉によれば、同目録一二記載の売上が認められる。

(14) 〈書証番号略〉によれば、同目録一三の1の売上が認められる。

(15) 〈書証番号略〉によれば、同目録一三の2の売上が認められる。

(16) 〈書証番号略〉によれば、被告が株式会社ポラリスとの間で商品化使用契約を締結したことが認められるが、使用料が一四〇〇万円であることを認めるに足りる証拠はない。結局、本件全証拠によっても、同目録一四記載の売上を認めるに足りない。

(17) 〈書証番号略〉によれば、同目録一五記載の売上が認められる。

もっとも、被告代表者は、右売上は被告の売上ではないと供述する。しかし、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、加勢大周のファンクラブは被告が事務を処理しており、その年会費はインターフェイスプロジェクト飛鷹に振り込むことになっていたのであるから、右年会費収入が被告の売上であることは明らかである。

(18) 〈書証番号略〉によれば、同目録一六記載の売上が認められる。

もっとも、被告代表者は、右売上は被告の売上でないと供述する。しかし、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、加勢大周相手役募集イベントオーディションは被告が主催したものであり、これによる収入は当然被告の売上と解すべきものである。

(19) 〈書証番号略〉によれば、同目録一七記載の売上が認められる。

(20) 〈書証番号略〉によれば、同目録一八の1及び2記載の売上が認められる。

二抗弁1について

本件全証拠によっても、抗弁1の事実を認めるに足りない。

もっとも、原告本人尋問中には、平成三年四月二〇日ころ、被告代表者竹内の態度に不信感を抱き、喧嘩の末、本件契約は終了したものと考えるに至った旨の供述部分がある。しかし、右供述のみから本件契約の合意解除の成立を推認することはできない。他に、原告と被告間に本件契約の合意解除が成立したことを認めるに足りる証拠はない。

三抗弁2について

本件契約は、継続的な契約であるから、たとえ、被告が契約成立後に契約を有効に解除したとしても、解除の効果は遡及しないと解するのが相当である。したがって、抗弁2は、主張自体失当である。

四抗弁3及び4について

本件全証拠によっても、株式会社ライフ、株式会社アイアンドエスと被告との間の広告宣伝出演契約が解除されたことを認めるに足りない。

なお、〈書証番号略〉は、株式会社アイアンドエスから被告に宛てた平成四年三月六日付けの相殺通知書であるところ、右書証には、株式会社アイアンドエスが被告に対し、二七八一万一三七円の債務と五一四二万二一〇〇円の被告の債務不履行に基づく損害賠償請求権等をもって、その対当額で相殺の意思表示をした旨の記載がある。しかし、これをもって、株式会社アイアンドエスが前記契約を解除したものと推認することはできない。

五以上によれば、原告の請求は、一二三八万一六五四円及びこれに対する平成三年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。

(裁判官畠山稔)

別紙売上目録〈省略〉

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